鳩の日記

彼には程遠い微塵もない語彙力で日々思ってることを綴ります

部活と炭酸とココア

いい汗かいた部活終わり、そんな時は炭酸だろっと友達と自販機に三ツ矢サイダーを買いに行った。三ツ矢サイダーのボタンは3つあってそのうちの1番左を友達が押したら、もちろん1本の三ツ矢サイダーが出てきた。続いて私も買おうと、真ん中のボタンを押すと、がちゃんとペットボトルが出てくる音が自販機の中に鳴った。

まだ4月なのに少し動いただけで、私は汗をかいてしまう。湿った体にひっつくワイシャツが気持ち悪くて、いらいらする。だけど、そんないらいらがあればあるほど、気持ちいいくらいに爽やかに吹き飛ばしてくれるのは炭酸のいいところだ。私が今一番欲しいものは、三ツ矢サイダーだけだ。

心を弾ませながら受け取り口に手を伸ばした。が、しかし、そんな気持ちを裏切るようにいくら腕を動かしても見つからない。確かに、出てくる音はした。なのに君(三ツ矢サイダー)が見つからなくって、君(三ツ矢サイダー)だけがどこにもいなくって。あの夏が飽和しちゃうよ〜(т-т)なんて笑。

もう1人の友達が、心配しつつもお金を入れて私と同じ真ん中のボタンを押す。が、また出てこない。出てこなくて困ってる私たちは誰か大人を呼ぶことにした。友達がちょうど食堂の中に自販機の中身を補充するおじさんがいることに気がついた。私は咄嗟に走り出し、ローファーも投げるように脱ぎ捨てて、おじさんのもとへ駆けつけた。息が整わないまま、おじさんに声をかけた。

「すみませんっ!あそこの自販機の三ツ矢サイダー出てこないんですけどどうにかしてくれませんか?」

普段、人に声をかけることを躊躇ってしまう私だけど、三ツ矢サイダーのためならそんな事頭に無かった。おじさんの答えは

「あっアサヒの自販機なので無理ですね。」

私は思わず落胆するところだった。だけど、私が部活で学んだこと、それは諦めないことだ。そう、こんなところでは諦めてはいけない。だけど、周りに大人はいない。とりあえず友達のいるところへ戻ることにした。

友達の元へ行くとなにやら友達が笑顔だ。聞いてみると、さっき私と同じ被害にあった友達がが1番右のボタンを押したところ、見事に三ツ矢サイダーが出てきたらしい。

ということはボタンの不具合で、もう品切れなのに点灯してしまってる訳ではないということだ。なら私にもまだチャンスはある。あの三ツ矢サイダーは諦めるが、もう一度お金を入れてみよう。前回のこともあって三ツ矢サイダーへの想いは時間が経つ事に積もっている。1つ120円の三ツ矢サイダーICカードは使えないのでこれがラストチャンス。100玉と10円玉2枚の計3枚、部活で頑張ったこと、暑さへの苛立ち、部活内での人間関係への不満が、これで全部チャラになる。あの3枚はこの世で1番気持ちのこもった120円だっただろう。想いを込めてお金を入れる。

目を閉じて深呼吸する。金曜日の放課後の下駄箱は、1週間の授業に開放されて浮ついている生徒と、土日は休みで会えない2日分の寂しさをこの短時間で埋めようとユーカリの木とコアラみたいにくっついているカップルで賑わっているが、そんな騒ぎ声もかき消してしまうほど、集中していた。頭の中は自販機と、そのボタンと、三ツ矢サイダーでいっぱいだった。

ボタンを押す。音が鳴る。三ツ矢サイダーが出てくる。

何度も何度もシュミレーションした。

……いける。

ふと、そう思った。

その瞬間目を開ける、人差し指に衝撃が走る。

ボタンを押していた。突き指した。

だけど、そんなことはどうでもよかった。

自販機からがちゃんと音が鳴る。

ここまではさっきと一緒であり、シュミレーション通り。重要なのはここから。友達3人と私の間には緊迫した状況が続いている。

まだ梅雨も来ていないというのに汗が垂れる。

そっと受け取り口に手を伸ばす。

細い自販機の受け取り口の中をこれでもかというくらい、腕を動かす。

が、その手のひらがなにかに触れることは無かった。

悔しかった。

バスの中、友達が三ツ矢サイダーを飲んでいる。私は一人、140円の冷たいココアを飲んでいた。おいしかった。

バスに乗る前たまたまいた校長先生に一連の流れを説明すると、月曜に担任の先生に話せと言われた。なので明日、先生に言いに行きます。

ココアがおいしかったからいいけど。